兼務役員の旅費の基本的な考え方

複数の法人で役員を兼務している場合(例:A社の代表取締役がB社の取締役も兼任するなど)、出張の旅費・日当はどの法人が負担するかが問題になります。

旅費は「どの法人の業務のために出張したか」によって帰属が決まります。法人税法上、法人の損金として処理できる旅費は、あくまでもその法人の事業目的のために発生した費用に限られます。

出張の目的旅費を負担すべき法人処理の根拠
A社の営業活動A社A社の業務に帰属
B社の仕入れ先訪問B社B社の業務に帰属
A社・B社両方の打合せA社・B社で按分業務時間・目的で按分
グループ全体の戦略会議主催・受益の法人が負担実態に基づいて判断

出張の目的が複数の法人にまたがる場合は、業務時間の割合や打合せの比率に応じて按分することが合理的です。按分の根拠となる記録(スケジュール、会議議事録等)を保存しておくことが重要です。

同一出張で複数法人から日当を受け取ることの可否

同一の出張に対して、複数の法人からそれぞれ日当を受け取ることは、原則として認められません。日当は「出張に伴う実費弁償(食費・雑費の補填)」という性格を持つため、同一の出張行程で複数の法人から日当を受け取ると「二重取り」とみなされ、過大受給として税務上問題になるリスクがあります。

ただし、例外的に認められうるケースもあります。

  • 出張を明確に分割できる場合:午前中はA社の業務(A社から日当の半日分)、午後はB社の業務(B社から日当の半日分)というように、業務の時間的分割が明確であれば、合算しても1日分の日当相当額に収まる範囲での分割支給は説明可能です。
  • 旅費(交通費・宿泊費)の按分:日当とは別に、交通費・宿泊費は実費が発生しているため、業務の帰属割合に応じて各社が按分負担することは合理的です。

税務調査で最も問題になるのは「同一の出張なのに2社から丸々1日分の日当をもらっている」ケースです。日当の合計額が社会通念上相当の額を超えると判断された場合、超過部分が役員給与・給与所得として課税される可能性があります。

旅費の帰属を判断する基準

出張が複数の法人の業務に関連する場合、旅費の帰属は以下の基準で判断します。

1. 主要な業務の法人を基準とする方法
出張の主な目的がどの法人の業務かを判断し、主要な法人が全額負担します。例えば、A社の取引先訪問が主目的で、ついでにB社関連の情報収集を行った場合は、A社が全額負担するのが合理的です。

2. 業務時間・日数で按分する方法
出張中の業務時間を計測し、各法人の業務に費やした割合で按分します。この場合、日次スケジュールや行動記録が按分の根拠となります。

3. 会議・打合せの参加目的で按分する方法
出張中の会議や打合せに参加した目的(どの法人の代表として参加したか)に基づいて按分します。議事録への記載が重要です。

判断方法メリット必要な記録
主要業務の法人が全額負担処理がシンプル出張目的の記述
業務時間で按分合理的・説明しやすい日次スケジュール
会議目的で按分実態を反映しやすい会議議事録・参加記録

親子会社間での役員の旅費処理

親会社の役員が子会社の取締役を兼任するケースや、ホールディングス(持株会社)と事業会社を行き来する役員の旅費処理は、兼務役員の旅費の中でも特によくある事例です。

親子会社間の旅費処理では、以下の点に注意が必要です。

  • 子会社への訪問:親会社役員が子会社の経営管理のために子会社を訪問する旅費は、どちらの法人が負担するかを明確にする。一般的には訪問先(子会社)の業務に関する出張であれば子会社が負担、親会社の経営管理目的であれば親会社が負担します。
  • グループ会議への出席:グループ全体の経営会議への参加費用は、その会議を主催する法人(ホールディングス等)が負担するのが合理的です。
  • 子会社からの旅費支給:親会社の役員が子会社から旅費を受け取る場合、その旅費が適正な額であり旅費規程に基づいているかを子会社側で確認する必要があります。

グループ法人税制との関係

100%グループ内の法人間取引については、グループ法人税制の適用があります。役員の旅費についても、グループ内の法人間で費用を付け替える場合には、以下の点を確認してください。

  • グループ内法人間の旅費の付け替えは、実態(どの法人の業務か)に基づいて行う
  • 適正な対価(実費相当額)での精算が必要(恣意的な費用配分は避ける)
  • グループ法人税制の「寄附金」として否認されないよう、業務目的に基づいた合理的な按分を行う

グループ法人税制の詳細な適用については、税理士にご相談ください。

兼務役員の旅費規程の整備方法

複数の法人で役員を兼務する場合、各法人が独自に旅費規程を整備することが重要です。1つの法人の旅費規程で兼務役員を横断的に管理しようとすると、他の法人の損金算入根拠が曖昧になります。

各社の旅費規程で整備すべき事項は以下の通りです。

整備事項記載内容の例
出張の定義「本社(所在地)から○km以上または○時間以上の業務上の移動」
日当の支給基準役職別の日当金額(代表取締役:○○円、取締役:○○円)
兼務役員の旅費帰属「本社の業務目的の出張については本社が負担する」旨の規定
按分の方法「複数法人の業務を兼ねる場合は業務時間で按分する」旨の規定
申請・承認手続き出張申請書の様式と承認者の規定

TAXAVEを利用する場合、各法人ごとにアカウントを設定し、それぞれの旅費規程に基づいた日当計算・管理を行うことができます。兼務役員の旅費処理も、どの法人の出張として登録するかを明確にすることで、帰属の記録が自動的に残ります。

旅費規程の整備に際しては、各社の実態に即した内容で作成し、定期的に(少なくとも年1回)内容を見直すことをお勧めします。