日当って「何がお得」なの?給与との違いを税金・社会保険で完全比較
「日当が節税になると聞いたけど、具体的に何がお得なのかわからない」――そんな疑問にお答えします。日当と給与の違いを所得税・住民税・社会保険料の3つの観点から完全比較。非課税になる仕組みと手取り計算の具体例で、日当のメリットをゼロからわかりやすく解説します。
日当とは何か:基本的な定義と法的根拠
日当(にっとう)とは、出張や旅行に伴う諸費用(食事・通信・雑費など)を実費精算ではなく定額で補填するために支給するお金です。英語では "daily allowance" や "per diem" とも呼ばれます。
日当の法的根拠
日当が非課税になる根拠は、所得税法第9条第1項第4号にあります。
所得税法第9条第1項第4号(一部)
「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するために必要な旅費(その旅費として支給を受けた金品のうちその旅行について通常必要と認められる部分として政令で定めるものに限る。)」
→ つまり、出張に通常必要な費用として認められる範囲の日当は、所得税が課税されないということです。
日当と実費精算の違い
日当と混同されやすいのが「実費精算」です。2つの違いを整理します。
| 項目 | 日当 | 実費精算 |
|---|---|---|
| 金額の決め方 | 旅費規程で事前に決めた定額 | 実際にかかった金額 |
| 領収書 | 不要 | 必要 |
| 差額の扱い | 実費が日当を下回っても返却不要 | 実費を超えた分は自己負担 |
| 手続きの手間 | 少ない | 多い |
| 税務上の根拠 | 旅費規程が必要 | 領収書が証拠 |
日当が支給される場面
日当は以下のような場面で支給されます。
- 国内出張(日帰り・宿泊)
- 海外出張
- 研修・セミナー参加のための移動
- 視察・見学のための移動
日当の仕組み:なぜ非課税になるのか
日当が非課税になる理由は、「実費弁償的な性格」を持つからです。日当は所得(もうけ)ではなく、出張のために余分にかかる費用(食事代・雑費など)を補填するものだと法律が認めているのです。
非課税の範囲:「通常必要な金額」とは
日当が非課税になるのは「通常必要と認められる金額の範囲内」です。この基準は厳密な上限金額ではなく、以下の要素を総合的に判断します。
- 役職・立場(役員は一般社員より高い日当が認められる)
- 出張先・距離(遠方・海外は高い日当が認められる)
- 業種・業界の慣行
- 会社の規模と経営実態
日当の非課税と「実費」との関係
日当が実際の出張費用(食事代など)を上回る場合でも、「通常必要な金額」の範囲内であれば全額非課税です。たとえば日当3,000円に対して実際の食事代が2,000円だった場合、差額の1,000円も課税されません。これが日当の大きなメリットです。
所得税の比較:給与と日当の課税の違い
日当の「お得さ」を最もわかりやすく示すのが、同じ金額を給与として受け取る場合との比較です。
所得税の課税構造
給与(役員報酬)は「給与所得」として所得税の課税対象になります。所得税は累進課税のため、収入が高いほど税率が上がります。
| 課税所得 | 所得税率 | 給与で受取(手取) | 日当で受取(手取) | 差額 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 10% | 24,300円 | 30,000円 | +5,700円 |
| 500万円 | 20% | 21,900円 | 30,000円 | +8,100円 |
| 700万円 | 23% | 20,490円 | 30,000円 | +9,510円 |
| 900万円 | 33% | 15,630円 | 30,000円 | +14,370円 |
| 1,200万円 | 33% | 15,630円 | 30,000円 | +14,370円 |
※給与の手取りは所得税のみを考慮(住民税・社会保険料を含めるとさらに差が広がる)
住民税も課税されない
日当は所得税だけでなく、住民税(一律10%)の課税対象にもなりません。給与で受け取る場合は所得税と住民税の合計で大きな控除が発生します。
社会保険料の比較:標準報酬月額への影響
日当と給与の2つ目の大きな違いは、社会保険料への影響です。これが「二重の節税効果」と呼ばれる理由です。
標準報酬月額とは
社会保険料(健康保険・厚生年金)は「標準報酬月額」を基準に計算されます。標準報酬月額は、毎月受け取る報酬(給与・役員報酬)の平均から決定されます。
日当は標準報酬月額に含まれない
健康保険法第3条第5項・厚生年金保険法第3条第1項第6号では、「臨時に受けるものおよび3月を超える期間ごとに受けるもの」や「実費弁償的なもの」は標準報酬月額から除外されます。日当・旅費はこの「実費弁償的なもの」に該当するため、標準報酬月額に算入されません。
| 項目 | 給与として月3万円追加 | 日当として月3万円支給 |
|---|---|---|
| 健康保険料(本人) | +約1,500円 | 0円 |
| 厚生年金保険料(本人) | +約2,745円 | 0円 |
| 健康保険料(会社) | +約1,500円 | 0円 |
| 厚生年金保険料(会社) | +約2,745円 | 0円 |
| 社保合計(本人+会社) | 約8,490円/月増 | 0円 |
| 社保の年間差額 | 約101,880円増 | 0円 |
将来の年金への影響
社会保険料が下がることで、将来受け取れる厚生年金額も若干下がります。ただし、節約した社会保険料をiDeCo・NISAで運用する方が、将来の資産形成としては有利になるケースが多いです。社会保険料を下げることのデメリットよりも、節約した保険料を自分で運用するメリットの方が大きいと考える経営者が増えています。
法人税への影響:損金算入の仕組み
日当は個人(役員)にとって非課税なだけでなく、法人にとっても損金算入できる費用として扱われます。
損金算入とは
損金算入とは、支出した費用を法人の利益(課税所得)から控除することです。日当を支払うと、その金額分だけ法人の課税所得が減り、法人税が少なくなります。
月3万円の日当による法人税節税効果
- 年間日当:36万円
- 法人税率(中小企業・所得800万円以下):15%
- 法人税節税:36万円 × 15% = 54,000円
- 地方税(法人住民税・事業税)も含めた実効税率23%で計算:36万円 × 23% = 82,800円
手取り比較計算:具体的な数字で見る違い
これまでの各要素を合算して、月3万円を「給与」で受け取る場合と「日当」で受け取る場合の完全比較を行います。
ケース:課税所得700万円の1人社長(所得税率23%)
| 項目 | 給与として36万円/年 | 日当として36万円/年 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 個人の手取り | — | — | — |
| 所得税(23%) | ▲82,800円 | 0円 | +82,800円 |
| 住民税(10%) | ▲36,000円 | 0円 | +36,000円 |
| 社会保険料(本人14.15%) | ▲50,940円 | 0円 | +50,940円 |
| 個人手取り合計 | 190,260円 | 360,000円 | +169,740円 |
| 法人の節税効果 | — | — | — |
| 法人税(実効23%) | — | ▲82,800円支出(節税) | — |
| 社会保険料(法人14.15%) | ▲50,940円 | 0円 | +50,940円節約 |
| 個人+法人の総節税 | — | — | +220,680円 |
月3万円(年36万円)の日当を活用することで、個人の手取りが16.9万円増え、法人の社会保険料負担も5.1万円減ります。合計で年間約22万円の差が生まれます。
複数のシナリオで比較
課税所得別の日当効果(月3万円・年36万円の日当想定)
- 課税所得300万円(税率10%):個人+法人節税 約85,000円/年
- 課税所得500万円(税率20%):個人+法人節税 約140,000円/年
- 課税所得700万円(税率23%):個人+法人節税 約220,000円/年
- 課税所得1,000万円(税率33%):個人+法人節税 約280,000円/年
課税所得が高いほど、日当節税の効果が大きくなります。
日当のデメリット・注意点
日当には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリット・注意点もあります。
デメリット①:旅費規程の整備が必要
日当を非課税で支給するには、旅費規程の整備が前提です。規程なしで日当を支給すると「給与」とみなされるリスクがあります。規程の作成・維持にはある程度の手間がかかります。
デメリット②:出張の実態が必要
出張しない日に日当は支給できません。毎月一定額を受け取るためには、それに見合った出張実績が必要です。
デメリット③:将来の年金が若干減る
社会保険料の標準報酬月額が下がることで、将来受け取れる厚生年金が若干減少します。ただし多くのケースで節税効果の方が大きいため、トータルでは有利になります。
デメリット④:過度な設定は税務リスク
社会通念を大幅に超えた日当設定は、税務調査で「給与」として認定されるリスクがあります。業界水準を踏まえた合理的な金額設定が重要です。
日当を始めるために必要なこと
日当節税を始めるための具体的なステップを確認しましょう。
- 旅費規程を作成する:TAXAVEのテンプレートを活用。30分で完成します。
- 取締役会(書面決議)で承認を得る:1人社長でも書面決議で対応可能。議事録を保存。
- 日当の金額を設定する:業界水準を参考に、役員として適切な金額を設定。
- 出張記録の仕組みを作る:TAXAVEで出張申請・精算を自動化。
- 精算書の発行・保存をする:電帳法対応で電子保存。
よくある質問
- Q. 日当は毎月必ず同じ金額をもらえますか?
- A. 日当は出張した日にのみ支給されるものです。毎月出張回数が異なれば、受け取る日当も変わります。出張のない月は日当ゼロになります。定額を毎月受け取りたい場合は役員報酬で設計する必要があります。
- Q. 日当を使うと年末調整はどうなりますか?
- A. 日当は非課税のため、年末調整の計算対象になりません。役員報酬(給与所得)に対して通常通り年末調整を行い、日当は別途出張精算書で管理します。
- Q. 日当と交通費は別ですか?
- A. 別です。日当は食事・雑費の補填を目的とした定額支給であり、交通費(電車・新幹線代など)は別途実費精算または定額精算します。旅費規程では日当と交通費を明確に分けて定めます。
- Q. 個人事業主でも日当を活用できますか?
- A. 個人事業主の場合、「自分自身に日当を支給する」という形式は取れません。日当の非課税制度は「法人の役員・従業員が会社から受け取る」形式が前提です。個人事業主には別の節税手段が適しています。
- Q. 日当はいくらまで設定できますか?
- A. 明確な上限額は定められていませんが、「社会通念上相当な金額」が基準です。実務的には、役員の国内日帰り出張で3,000〜8,000円、宿泊出張で5,000〜15,000円が一般的な範囲です。