1. 海外出張の日当が国内と異なる理由
海外出張の日当は、国内出張の日当とは別に設定するのが一般的です。その理由は複数あります。
物価の差
海外の都市は、国内の都市と比べて物価が大幅に異なります。ニューヨーク・ロンドン・シンガポールなどの主要都市は、東京と比較しても物価が非常に高く、食費・交通費・雑費が国内より多くかかります。一方、東南アジアの一部の都市は国内より物価が低い場合もあります。こうした物価差を考慮して、地域ごとに日当金額を設定することが合理的です。
為替変動リスク
海外では外貨を使用するため、為替レートの変動によって実際の費用が変わります。円安局面では海外の費用が円換算で大幅に増加します。2024〜2026年の円安局面では、多くの企業が海外出張の日当を引き上げています。
出張のリスクと負担
海外出張は国内出張に比べて、時差による体調負担・言語の壁・慣れない環境でのストレスなど、追加的な精神的・肉体的負担があります。こうしたリスクや負担に対する補償として、国内より高い日当を設定することは合理的と認められています。
長時間移動
海外出張では、移動時間が長くなりがちです。国際線の長時間フライト中は実質的に業務ができず、体力を消耗します。移動日の日当を別途設定したり、移動距離・時間に応じた日当の加算を設けたりする企業もあります。
2. 外務省・国家公務員の旅費基準を参考にする考え方
海外出張の日当金額を設定する際の参考基準として、最もよく使われるのが外務省・国家公務員の旅費基準です。
外務省の旅費基準とは
外務省では、在外公館に勤務する職員や、外務省職員が海外出張を行う際の旅費・日当の基準を定めています。この基準は国ごと・都市ごとに細かく設定されており、当該地域の物価・生活費を反映した合理的な金額設定として税務上も参考にされます。ただし、外務省の基準はあくまで参考であり、民間企業がそのまま使う義務はありません。
国家公務員の旅費基準
国家公務員の海外旅費は「国家公務員等の旅費に関する法律」と「外国旅費支給基準」に基づいています。職種・役職(指定職・行政職など)に応じた日当の基準が設けられており、地域区分も細かく分類されています。民間企業がこの基準を上回る日当を設定した場合、「社会通念上相当な金額」を超えていると判断されるリスクがあります。
民間企業の相場との関係
民間企業の海外出張日当は、国家公務員の基準を参考にしつつ、業界・会社規模・役職に応じて設定されるのが一般的です。大企業では国家公務員より若干高い水準で設定されることもありますが、中小企業・一人会社では国家公務員の基準以下または同程度で設定するケースが多いです。
3. 地域別の日当相場一覧表
海外出張の日当相場を地域別に示します。以下は民間企業の一般的な相場であり、職位・会社規模によって異なります。2026年時点の為替レートと物価水準を考慮した目安です。
| 地域 | 代表的な都市 | 日当相場(一般社員) | 日当相場(役員・管理職) |
|---|---|---|---|
| 北米(高物価都市) | ニューヨーク・サンフランシスコ・ロサンゼルス | 15,000〜25,000円 | 20,000〜35,000円 |
| 北米(その他) | シカゴ・ボストン・トロント | 12,000〜20,000円 | 18,000〜28,000円 |
| 西欧(高物価都市) | ロンドン・チューリッヒ・パリ・アムステルダム | 15,000〜25,000円 | 20,000〜35,000円 |
| 西欧(その他) | フランクフルト・ミラノ・マドリード | 12,000〜18,000円 | 16,000〜25,000円 |
| オーストラリア・NZ | シドニー・メルボルン・オークランド | 12,000〜18,000円 | 16,000〜25,000円 |
| 東アジア(高物価) | 香港・シンガポール | 10,000〜18,000円 | 15,000〜25,000円 |
| 東アジア(その他) | ソウル・台北・上海・北京 | 8,000〜14,000円 | 12,000〜20,000円 |
| 東南アジア(主要都市) | バンコク・クアラルンプール・ジャカルタ・マニラ | 6,000〜12,000円 | 10,000〜16,000円 |
| 中東 | ドバイ・リヤド・アブダビ | 12,000〜20,000円 | 18,000〜28,000円 |
| インド | ムンバイ・ニューデリー・バンガロール | 6,000〜10,000円 | 10,000〜16,000円 |
※上記は民間企業の一般的な相場の目安です。実際の金額は会社規模・業種・役職・為替レートにより異なります。2026年6月時点の情報に基づきます。
移動日の日当について
海外出張では、出発日・帰国日(移動日)の日当をどう設定するかも重要です。移動日は実質的に現地で業務ができない日もあるため、移動日の日当を滞在日の半額〜同額程度に設定するケースが多いです。旅費規程に「移動日の日当は滞在日の○割とする」と明記しておくとよいでしょう。
4. 非課税の考え方(国内と同じく「社会通念上相当」が基準)
海外出張の日当が所得税非課税になる条件は、国内出張と基本的に同じです。
「社会通念上相当な金額」が基準
所得税法施行令第21条に基づき、出張日当は「その旅行について通常必要であると認められる金額」であれば非課税とされます。海外出張の場合も、同じ基準が適用されます。ただし、「通常必要」の金額は地域の物価・為替・出張の目的によって異なるため、国内より高い日当設定が認められます。
税務調査での判断基準
税務調査では、以下の点を考慮して「社会通念上相当」かどうかが判断されます:
- 訪問地域の物価水準
- 役職・職種(管理職は一般社員より高い日当が認められやすい)
- 出張の目的と期間
- 同業他社・同規模企業の相場との比較
- 外務省・国家公務員の旅費基準との比較
外務省・国家公務員の基準の1.5倍以上になるような設定は、否認されるリスクが高くなります。逆に、国家公務員の基準以下または同程度であれば、税務上問題になる可能性は低いと考えられます。
高物価・円安局面での注意点
急激な円安局面では、旅費規程で定めた円建ての日当金額が実態と乖離することがあります。旅費規程は定期的に見直し、現在の為替レート・物価水準に合った金額に更新することが重要です。また、為替変動を考慮して「現地通貨建てで設定した日当に支払日の為替レートを適用する」方式を採用することも可能です。
5. 旅費規程への海外日当の記載方法
旅費規程に海外出張の日当を記載する際の書き方とサンプル条文を紹介します。
地域区分表を設ける
海外出張の日当は、地域区分(A地域・B地域・C地域など)に応じた金額表を旅費規程に添付する形が一般的です。
旅費規程 第○条(海外出張日当)サンプル
第○条 役員および従業員が海外出張を行う場合の日当は、別表「海外地域区分及び日当額一覧」に定める金額を支給する。
2 前項の日当は、出張の出発日および帰国日(移動日)については、それぞれ別表に定める金額の100分の50とする。ただし、出発時刻が午後5時以前の場合は100分の100とする。
3 同一の出張において複数の地域を訪問した場合は、各地域の滞在日数に応じてそれぞれの地域の日当を適用する。
4 第1項の日当の金額は、為替レートの大幅な変動(前回改定時から20%以上の変動があった場合など)があった場合に見直すものとする。
別表:海外地域区分及び日当額一覧(一例)
| 地域区分 | 対象地域(例) | 役員(代表取締役等) | 管理職 | 一般社員 |
|---|---|---|---|---|
| A地域(高物価) | 北米主要都市・西欧主要都市 | 28,000円 | 22,000円 | 18,000円 |
| B地域(中物価) | 東アジア・中東・オセアニア | 20,000円 | 16,000円 | 12,000円 |
| C地域(低〜標準物価) | 東南アジア・インド・南米 | 14,000円 | 11,000円 | 8,000円 |
※上記はサンプルであり、自社の規模・業種・物価状況に合わせて設定してください。
旅費規程記載時の注意点
- 地域区分は「国別」「都市別」「物価水準別」のいずれかで設定する。細かすぎると管理が大変になるため、3〜5区分程度が実用的
- 移動日の日当計算方法を明記する
- 複数国を訪問する場合のルールを明記する
- 為替変動時の見直しルールを記載する
- 宿泊費の上限も合わせて設定し、地域ごとに異なる上限額を明示する
6. 外貨支払い vs 円払いの扱い
海外出張の費用・日当を外貨で支払うか円で支払うかによって、会計処理が異なります。
日当を円で支払う場合
旅費規程に日当金額を円建てで設定し、出張前または帰国後に日本円で支払う方法です。最もシンプルな方法で、会計処理も簡単です。為替レートの変動リスクは会社が負担します(役員・従業員は関係ない)。
仕訳例:旅費交通費 20,000円 / 現金 20,000円(または未払金)
日当を外貨で支払う場合
役員・従業員に現地通貨で日当を手渡す方法です。この場合、外貨への換算が必要になります。実際の換算レート(購入日の銀行のTTSレートなど)を使って円換算した金額を計上します。
仕訳例(米ドル建て、$200を1ドル=150円で換算):旅費交通費 30,000円 / 現金 30,000円
為替差益・差損が生じる場合は、雑収入・雑損失として処理します。
法人カードで立て替えた場合
役員・従業員が法人カードで費用を立て替えた場合、カード明細の請求金額(円換算後)をもとに会計処理します。外貨建て取引の場合は、取引日の為替レートで円換算した金額を計上し、実際の支払時に為替差異が生じれば為替差損益で処理します。
外貨の現金を持参させる場合
会社が外貨を購入して渡す場合は、外貨購入時のレートで換算した金額を「前払費用」または「現金」として計上し、帰国後の精算時に旅費交通費に振り替えます。余った外貨を会社に返却させる規定も設けておくとよいでしょう。
7. 追加書類(パスポート・搭乗券・ビザなど)の保存方法
海外出張では、国内出張にはない追加的な証拠書類の保存が必要です。
パスポートの入出国スタンプ
パスポートの入出国スタンプは、「いつ・どの国に・入国・出国したか」を証明する最も確実な証拠です。税務調査で「本当に海外出張したか」を確認される場合に有効です。パスポートは直接提示する形になりますが、重要なページをコピー・スキャンしておくと管理しやすくなります。
搭乗券・航空券(ボーディングパス)
紙の搭乗券は保存しておきましょう。電子搭乗券(モバイルボーディングパス)の場合はスクリーンショットを保存します。航空会社のウェブサイトからeチケット控えをPDFで保存することもできます。これらは「フライトが実際に行われた」証拠になります。
ホテルの領収書
現地のホテルが発行した領収書(外貨建て)を保存します。クレジットカード決済の場合はカード明細も合わせて保存します。外貨建ての領収書は円換算した金額で計上しますが、領収書の原本(外貨金額が記載されたもの)も保存しておきましょう。
ビザ(査証)関連書類
ビザが必要な国への出張の場合、ビザ申請費用も経費として計上できます(旅費交通費または雑費)。ビザの控え・費用の領収書を保存しておきましょう。
出張報告書と現地での業務証明
海外出張の場合、国内出張以上に「業務目的の証明」が重要です。以下の書類を合わせて保存しましょう:
- 海外出張報告書(訪問先・業務内容・成果を記載)
- 現地取引先とのメール・チャット(出張目的の業務が行われた証拠)
- 現地でのプレゼン資料・商談記録
- 展示会参加の場合:入場チケット・出展社名簿など
8. TAXAVEで海外出張日当を管理する
TAXAVEでは旅費規程に地域区分・日当金額を設定することで、海外出張の申請時にも自動で正しい日当を計算できます。領収書の電子保存・電帳法対応も標準装備。海外出張が多い一人会社・小規模法人の旅費管理を効率化します。月額4,500円・14日間無料トライアルでお試しください。
無料で始める(14日間トライアル)9. よくある質問
10. まとめ
海外出張の日当は、地域の物価・為替・出張の負担を考慮して国内より高く設定することが合理的であり、税務上も認められます。日当の相場は地域によって異なり、北米・西欧の高物価都市では一般社員で15,000〜25,000円程度、東南アジアでは6,000〜12,000円程度が目安です。非課税の基準は国内と同様「社会通念上相当な金額」であり、外務省・国家公務員の旅費基準が参考になります。旅費規程には地域区分表と役職区分ごとの日当額を明記し、移動日の日当ルールや為替変動時の見直し方針も記載しましょう。外貨払いの場合は為替換算処理が必要で、パスポートの入出国スタンプ・搭乗券・出張報告書など国内出張にはない追加の証拠書類の保存も重要です。
- 海外出張日当は地域の物価・為替・出張の負担を考慮して国内より高く設定できる
- 北米・西欧は15,000〜25,000円、東アジアは8,000〜18,000円、東南アジアは6,000〜12,000円が相場目安
- 非課税の基準は「社会通念上相当な金額」。外務省・国家公務員基準が参考になる
- 旅費規程には地域区分表・役職区分・移動日のルール・為替変動時の見直し方針を記載する
- 外貨払いの場合は為替換算処理が必要。パスポート・搭乗券・出張報告書を保存する
- 為替変動が大きい場合は旅費規程の日当金額を見直すことが重要